聖マリアハートクリニックは、基本理念の一環としてスピリチュアルケア(心のケア、人生における価値の確認)の充実を目指しております。最近、アルフォンス•デーケン氏の著作「よく生き、よく笑い、よき死と出会う」と出会いました。その中で、ガブリエル•マルセルの「問題」と「神秘」についての興味深い記述があったので、ご紹介致します。

問題と神秘

    アルフォンス•デーケン氏(上智大学名誉教授、哲学博士、イエズス会司祭)の「よく生き、よく笑い、よき死と出会う」からの引用。
    この世の中のいろいろな出来事を理解するためには、「問題」と「神秘」の二つのアプローチを区別して考えるべきだと、マルセルは説きました。「問題」というのは、全体を客観的に眺めて、何であるかが分かればハウ•ツーで解決できるような問いかけですが、この世にはもっと深い次元があります。それが「神秘」です。
    言わば「問題」は、それを問いかける私自身の外側にありますから、私たちはこうした「問題」を、知識や技術によって解決することができます。
    しかし「神秘」と向き合うには、問いかける私そのものが、問いに巻き込まれてしまうため、客観的な解決は不可能になります。「神秘」には、「問題」とは全く違う態度で、アプローチしなければなりません。
    「問題」というのは、たとえば、私が講義している最中にマイクの音が聞こえなくなったとします。原因を探ってみると、マイクの電池が切れていたというような場合です。新しい電池を入れれば、問題はなくなります。技術的なノウハウで解決できるわけです。そして解決された問題は、人間の支配下に置くことができます。古来から人間はそうやって、世界の様々な状況をコントロールしてきたのです。
    しかし、「なぜ四歳の妹は死ななければならなかったのか」という疑問はどうでしょう。いかに考えようとも、完全な解決などありえません。では、「私は何者なのか」という問いかけはどうでしょうか。こういう問いかけを、技術的なノウハウで解決することは不可能です。
    これらは全て「神秘」の次元に属します。
    神秘は、問題のように解決できない以上、人間のコントロール下に置くこともできません。神秘に対しては、支配を試みるのではなく、謙虚に開かれた心で接しなくてはならないのです。
    患者が入院してきた時、医者は問題としてどういう病気であるか、その病気はどの手術、どの薬で治すことができるかを、まず考えます。これは「問題」の次元になります。
    しかし、病状がある段階に到達すると、「もう治らない」とういうことになる場合もあります。こうなると、もはや「問題」ではなく、「神秘」の次元になります。
    私たちには完全に理解できない「神秘」の次元があるということを、しっかり意識しなければなりません。
    これは生き方、価値観、あらゆる面で、きっちり区別される必要のあることなのです。
    マルセルは、「ただ『問題』を考えることだけが重要で、それが何よりも優先されるべきことだ」という考え方が大きな間違いだということを教えてくれました
    もっともっと深いものがあるのです。「神秘」に対しては、「問題」とは違う態度が必要なのです。
    例えば、愛とか自由とか人間との出会い、苦しみ、悪、存在、誕生、生と死などは、単なる問題のレベルではなく、もっと深い、神秘のレベルです。
    そして、彼が強調したかったのは、神秘に近づこうとする際の望ましい態度は、支配を試みることではなくて、素直な驚き、謙遜、畏敬、そして開かれた心である、ということでした。
    マルセルは、医学については言及していませんでしたが、私は後でマルセルの考えを医学にも当てはめてみたのです。患者の病気が治る可能性があるのならば、これはもちろん問題解決のレベルです。しかし、治る見込みがなくなって死を待つ状態の時は、単なる問題のレベルでは考えられないし、考えてはいけないことなのです。
    私たちは、死という大きく深い神秘の前では、まず、もっと謙虚になることから始めなければならないのです。

わたしは復活であり、命である

マルタはイエスに言った。「主よ、もしここにいてくださいましたら、わたしの兄弟は死ななかったでしょうに。しかし、あなたが神にお願いになることは何でも神はかなえてくださると、わたしは今でも承知しています。」 イエスが、「あなたの兄弟は復活する」と言われると、マルタは、「終わりの日の復活の時に復活することは存じております。」と言った。イエスは言われた。「わたしは復活であり、命である。わたしを信じる者は、死んでも生きる。生きていてわたしを信じる者はだれも、決して死ぬことはない。このことを信じるか。」マルタは言った。「はい、主よ、あなたが世に来られるはずの神の子、メシアであるとわたしは信じております。」

日本聖書協会 新共同訳聖書 ヨハネによる福音書11章21-27節

ガブリエル•マルセル

ガブルエル•マルセル(1889-1973)は、「二十世紀のソクラテス」とも言われた偉大なフランスの哲学者です。

アルフォンス•デーケン

1938年ドイツ生まれ、’59来日。上智大学名誉教授。「東京•生と死を考える会」名誉会長。’91年全米死生学財団賞、第39回菊池寛章、’98年ドイツ功労十字勲章、’99東京都文化賞などを受賞。2003年上智大学定年退官。