感染性心内膜炎(infective endocarditis;IE)

IE
■概要
•感染性心内膜炎は心臓の内膜、特に弁膜に病原微生物が付着、増殖して疣贅(vegetation)と呼ばれる病変が形成され、菌血症が持続し多彩な症状を呈する全身性疾患である。

■分類
1. 経過による分類
  急性・・・・経過が1.5ヶ月以内:突然発症し数日のうちに重症となる
  亜急性・・・経過が1.5ヶ月~3ヶ月:数週から数ヶ月かけてゆっくり進行する

2. 病因による分類
  細菌性
  真菌性
  その他 クラミジア、リケッチアなど

3. 弁の性状による分類
  自己弁 native valve endocarditis (NVE)
  人工弁 prosthetic valve endocarditis (PVE)
   早期PVE:術後2ヶ月(60日)以内に発症
   後期PVE:術後2ヶ月(60日)以降に発症
■頻度
• IEの頻度は人口10万人当たり年間1.7~4.9人、静脈内投与薬物の乱用者では10万人当たり150~2000人と報告されている。
• 男性は女性の1.7倍で、中~高齢者に多く、全患者の1/4以上は60歳以上である。

■病因
• 起因菌の大部分はグラム陽性菌で、ブドウ球菌(staphylococci)、連鎖球菌(streptococci)、腸球菌(enterococci)が90%を占める。これらの細菌は損傷された弁の表面に付着する特殊なレセプターをもっている。
• α溶血性連鎖球菌(α-hemolytic streptococci=緑色連鎖球菌 Viridans streptococci)は自己弁IEで最も多い起因菌である。
• IEが考えられるにもかかわらず、血液培養陰性のものを培養陰性心内膜炎(culture-negative endocarditis;CNE)とよぶ。
• 培養が陰性となる原因:①抗生物質の投与、②培養困難な起因菌(HACEKとよばれる口腔内、上咽頭のグラム陰性桿菌)、③カンジダ、アスペルギルスなどの真菌、ブルセラ、バルトネラ、レジオネラ、クラミジアなどである。

■ハイリスク群
1. 特に重篤な感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高い心疾患で、予防が必要であると考えられる患者
• 生体弁、同種弁を含む人工弁置換患者
• 感染性心内膜炎の既往を有する患者
• 複雑性チアノーゼ性先天性心疾患(単心室,完全大血管転位,ファロー四徴症)
• 体循環系と肺循環系の短絡造設術を実施した患者

2. 感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高く予防が必要であると考えられる患者
• ほとんどの先天性心疾患
• 後天性弁膜症
• 閉塞性肥大型心筋症
• 弁逆流を伴う僧帽弁逸脱

3. 感染性心内膜炎を引き起こす可能性が必ずしも高いことは証明されていないが、予防を行うほうがよいと思われる患者
• 人工ペースメーカあるいは ICD 植え込み患者
• 長期にわたる中心静脈カテーテル留置患者

■ハイリスク群において抗菌薬の予防投与を必要とする手技
1. 感染性心内膜炎の予防として抗菌薬投与を必要とする手技
歯口科
• 出血を伴ったり,根尖を超えるような大きな侵襲を伴う歯科手技(抜歯,歯周手術, スケーリング,インプラントの植え込み, 歯根管に対するピンなどの植え込みなど)
呼吸器
• 扁桃摘出術・アデノイド摘出術
• 呼吸器粘膜を扱う手術(気管切開を含む)
• 硬性気管支鏡検査
消化管 食道静脈瘤に対する硬化療法
• 食道狭窄の拡張
• 胆道閉鎖時の逆行性内視鏡的胆管造影
• 胆道手術
• 腸粘膜を扱う手術
泌尿器•生殖器
• 前立腺の手術
• 膀胱鏡検査
• 尿道拡張

2. 感染性心内膜炎の予防として抗菌薬投与をしたほうがよいと考えられているもの
消化管
• 大腸鏡や直腸鏡による生検
生殖器 経膣子宮摘出術
• 経膣分娩
• 帝王切開
• 感染していない組織における
 子宮内容除去
 治療的流産
 避妊手術
 子宮内避妊器具の挿入または除去
その他
• 心臓カテーテル検査(PCI を含む) ペースメーカ,除細動器の植え込み
• 外科的に洗浄した皮膚の切開あるいは生検

3. 感染性心内膜炎の予防として抗菌薬投与をしなくてもよいもの
呼吸器
• 気管内挿管
• 軟性気管支鏡検査(生検も含む)
• 鼓室穿孔時のチューブ挿入
消化管
• 経食道心エコー図
• 上部内視鏡検査(生検を含む)
泌尿器・ 生殖器
• 感染していない組織における尿道カテーテル挿入
その他
• 中心静脈へのカテーテル挿入

■病態・発生機序
IEは心臓に異常がない患者に発症することはほとんどない。先天性心疾患や後天性弁膜症などによって心臓内に速い短絡血流や弁逆流があると、心内膜が傷つき、そこに血小板の凝集やフィブリン沈着が起こる。この状態で菌血症が起こると、ここに細菌が付着、増殖して疣贅を生じる。疣贅は細菌、フィブリン、血小板、赤血球、白血球からなり、大きさと形状はさまざまである。疣贅の発生部位は血流ジェットがあたる部分である。僧帽弁では左房側、大動脈弁では左心室側に生じることが多いが、ときに弁の両側に生じ、弁周囲や弁下組織を巻き込むことがある。人工弁ではまず弁座に疣贅ができる。

IEができるまで

■症状
頻度の多い症状:発熱、悪寒、発汗、全身倦怠感、食思不振、呼吸困難、体重減少
①弁破壊による心機能の低下
②菌血症による感染症状、塞栓症状
③免疫反応による症状
塞栓症は全体の1/3に生じると報告されている。

■検査と診断
血液データ:
①白血球増多(核の左方移動をともなう)、赤沈亢進、CRP陽性などの急性炎症所見
②亜急性心内膜炎では貧血、低アルブミン血症、高γ-グロブリン血症、リウマトイド因子陽性

a. 心エコー検査1
•疣贅の付着部位、大きさ、形状だけでなく弁輪部および心筋内膿瘍、細菌性動脈瘤などの診断ができる。
•経過中の弁破壊や腱索断裂、異常短絡の有無、弁逆流の重症度評価も可能である。
•経食道心エコー(trasesophageal echocardiography;TEE)による疣贅の検出感度は自己弁で94〜100%、人工弁で82〜96%と高い(経胸壁エコーでは、それぞれ60〜70%、20〜30%と低値)
•臨床的にIEが疑われるときは5〜7日後に再度TEEを施行する。

b. 血液培養
①IEの菌血症は持続的であるため、発熱のピークに合わせて採血する必要はない。
②動脈血と静脈血の菌の検出率は同じである。
③雑菌の混入(コンタミネーション)を防ぐため、採血部位、培養ボトルキャップを十分消毒し、清潔操作を徹底する。
④採血は別々の部位で、1時間以上あけて3回以上行う。
⑤検査室には患者がIE疑いであることを伝えておく。

Duke大学の診断基準(1994年) P1043

■治療
a. 内科的治療 P1049-1050

b. 外科的治療
①感染が抵抗性(真菌性などを含む)
②内科的治療によりコントロールできない心不全
③反復する塞栓症
④弁周囲への感染の波及(感染性動脈瘤や心筋内膿瘍形成)

C. 予防(上述)

■経過•合併症
•自然治癒はなく、放置すれば死亡する。
•主な死因は心不全、脳血管障害(脳梗塞、脳出血)、細菌性ショックである。
•1年死亡率は20.6%
•IEによる死亡は高齢者、女性、血清クレアチニン2mg/dl以上、うっ血性心不全、黄色ブドウ球菌と関係している。疣贅が大きいほど血流に飛ばされやすく、より太い動脈に詰まって塞栓症を起こすため予後が極めて悪い。直径15mm以上の疣贅は予後不良を意味する。
•PVEの手術死亡率はほとんどの報告で10%を超えている。そのため人工弁患者では、歯科処置に代表される菌血症をきたすような状況での予防的抗生物質投与が強く推奨される。

■患者指導、ケアのポイント
①発熱の持続、倦怠感•食欲不振など全身症状による苦痛、不安
②不明熱として検査が続く場合、診断がつかないことに対する不安、検査に対する不安
③抗生物質の長期持続点滴による苦痛
抗生物質の長期投与により静脈炎を合併することもあるため、点滴挿入部の清潔を保持し、周囲の皮膚の変化に注意する。
④抗生物質の副作用に対する不安
⑤治療開始後も、全身の臓器に塞栓症状が起こる可能性や弁破壊によって心不全に陥る可能性があり、治療中も疾患に対する不安が続く。
塞栓症の合併や弁の破壊による心不全の進行など、急速に病状が悪化することがある。安定している患者でも基本的な身体所見をきちんととってケアすることが重要である。
⑥内科治療によって改善しない場合に手術適応となり不安
内科から心臓血管外科への転科、病棟の移動をともなうことがあり、患者の不安に対処するとともに、周術期のチームアプローチが必要である。