本日の学習内容

狭心症:一過性の可逆性心筋虚血により胸痛などの症状を呈する症候群

狭心症のメカニズム

■病因•病態生理•発生機序
• 労作狭心症は、動脈硬化による冠動脈の狭窄によって生じる
• 冠動脈の内腔が75%以上狭くなると狭心症が起こるといわれている
• 冠動脈は粥腫(アテローム)の形成により狭窄像を呈するが、粥腫の破綻により血栓が形成されると狭窄度はさらに高度となる

■冠動脈硬化の危険因子
• 高血圧
• 喫煙
• 高コレステロール血症
• 糖尿病
• 肥満
• 家族歴

■メタボリックシンドロームの診断基準(2005)
内臓脂肪(腹腔内脂肪)蓄積
ウエスト周囲径(腹囲)
(内臓脂肪面積 男女とも≧100cm2に相当)
男性≧85cm
女性≧90cm

上記に加え以下のうちの2項目以上
1)高トリグリセライド(TG)血症≧150mg/dl
 かつ/または
低HDLコレステロール(HDL-C)血症
<40mg/dl (男女とも)

2)収縮期血圧≧130mmHg
かつ/または
拡張期血圧≧85mmHg

3)空腹時血糖≧110mg/dl

*ウエスト径は立位、軽呼気時、臍レベルで測定。臍が下方に偏位している場合は肋骨下縁と前上腸骨棘の中点の高さで測定。
*高TG血症、低HDL-C血症、高血圧、糖尿病に対する薬物治療を受けている場合は、それぞれの項目に含める。

■狭心症の分類
1.誘因による分類
• 労作狭心症
• 安静狭心症
• 労作兼安静狭心症
2.経過による分類
• 安定狭心症
• 不安定狭心症
3.発生機序による分類
• 器質的狭心症
• 冠攣縮性狭心症

■症状
• 前胸部の重苦しい絞扼感や圧迫感
• 頸部や肩に痛みが放散することもある
• 持続時間は数分から15分程度
• ニトログリセリンを舌下し改善することが多い
• チクチクと胸を刺すような痛み(一瞬で終わる痛み)は狭心症でない可能性が高い
• 労作狭心症においては、ある一定の労作(坂道歩行、階段を上るなど)によって症状が出現することが多い
• 安静狭心症(冠攣縮性狭心症)では明け方や早朝起床時が多い

■不安定狭心症
• 狭心症発作が新たに生じたもの
• 発作回数が増えたもの
• 痛みの持続時間が長くなったもの
• 労作時にしか発作が認められていなかったものが安静時にも出現するもの

■Braunwald分類
●重症度
ClassⅠ:新規発症の重症または増悪型狭心症
⁃ 最近2ヶ月以内に発症した狭心症
⁃ 1日に3回以上発作が頻発するか、軽労作にても発作が起きる増悪型狭心症。安静狭心症は認めない。
ClassⅡ:亜急性安静狭心症
• 最近1ヶ月以内に1回以上の安静狭心症があるが、48時間以内に発作を認めない。
ClassⅢ:急性安静狭心症
⁃ 48時間以内に1回以上の安静時発作を認める。

●臨床状況
ClassA:二次性不安定狭心症(貧血、発熱、低血圧、頻脈などの心外因子により出現)
ClassB:一次性不安定狭心症(classAに示すような心外因子のないもの)
ClassC:梗塞後不安定狭心症(心筋梗塞発症後2週間以内の不安定狭心症)

●治療状況
1)未治療もしくは最小限の狭心症治療中
2)一般的な安定狭心症の治療中(通常量のβ遮断薬、長時間持続硝酸薬、Ca拮抗薬)
3)ニトログリセリン静注を含む最大限の抗狭心症薬による治療中

で、ClassⅡ-Bとか、ClassⅢ‐B2とかいいます。

■検査と診断
a. 安静12誘導心電図:非発作時は正常、発作時にはST低下(冠攣縮性狭心症ではST上昇もあり)、左脚ブロックやWPW症候群の心電図を呈する患者の場合はもともとSTーT変化があるため、診断は困難

b. 運動負荷心電図:労作性狭心症の場合、運動負荷をかけることにより、胸部症状の出現の有無やST変化をみるのに有用。マスター2段階試験、トレッドミル法、自転車エルゴメーター法などがある。水平型や下降型のST低下をみとめるものを陽性とする。冠攣縮性狭心症では運動負荷によりST上昇を認めることがある。不安定狭心症や急性心筋梗塞の可能性が高い場合は検査を施行すべきでない。

c. ホルター心電図:発作時のST上昇やST低下をとらえることが可能。冠攣縮性狭心症に有用

d. 心エコー図:発作時に虚血を生じた冠動脈の支配領域に一致して壁運動異常を認めることが多い。

e. 心筋シンチグラム:タリウム(201Tl)やテクネシウム(99mTc)を用いることが多い。運動負荷を施行することにより、虚血部位を同定する。運動困難な場合は薬物負荷(ジピリダモール、アデノシン三リン酸など)で施行することもあり。

f. 胸部X線写真:異常を認めることはほとんどない

g. 血液生化学検査:狭心症発作自体で異常を認めることはない。ただし、トロポニンT陽性の不安定狭心症は急性心筋梗塞に移行する可能性が高い。

h. 心臓カテーテル検査
⁃ 狭心症の診断や治療方針の決定に最も重要な検査である
⁃ 大腿動脈、上腕動脈、橈骨動脈のいずれかから、局所麻酔下でシースを挿入後、カテーテルを冠動脈入口部まで進めて、冠動脈に造影剤を注入する
⁃ 有意な器質的狭窄(>75%)を認めれば狭心症と診断
⁃ 器質的狭窄がなく、胸部症状から冠攣縮性狭心症が疑われれば、冠攣縮誘発試験(アセチルコリンまたはエルゴノビンの冠注)を行い、冠攣縮発現の有無をみて診断する

鑑別診断
⁃ 急性心筋梗塞(ニトログリセリンが無効、30分以上持続する胸痛、心電図でST上昇)
⁃ 急性大動脈解離(造影CTにて大動脈内に解離腔の確認)
⁃ 急性心膜炎(心電図にてST上昇、心エコーにて心嚢水貯留)
⁃ 気胸(胸部X線写真にて肺の虚脱)
⁃ 逆流性食道炎(胃酸を抑えるH2部ロッカーやプロトンポンプインヒビターにて症状改善)

■治療
⁃ 発作時はニトログリセリンの舌下
⁃ 薬物療法(アスピリン、亜硝酸薬、βブロッカー、カルシウム拮抗薬、冠攣縮性狭心症の第一選択薬はカルシウム拮抗薬、βブロッカーは症状をむしろ悪化させる可能性あり)
⁃ 冠危険因子の是正(糖尿病、高血圧症、高脂血症、高尿酸血症)
冠動脈インターベンション(PCI: percutaneous coronary intervension)

a. POBA (plain old balloon angioplasty)

b. ステント留置術:DES (drug-eluting stent)

c. DCA (directional coronary atherectomy)

d. ロータブレーター

e. 冠動脈バイパス術(CABG: coronary artery bypass grafting):左主幹部病変(左主幹部に50%以上の器質的狭窄を有する)や低心機能の2.3枝病変の場合CABGの適応

■経過•合併症
PCIの合併症
• 急性期:急性冠閉塞(POBAのみの時代では急性冠閉塞が生じると緊急CABGへ回るケースがみられたが、ステントの登場により急性冠閉塞は高率に回避できるようになった)、側枝閉塞、冠動脈解離、不整脈、冠動脈穿孔、急性心筋梗塞
• 慢性期:ステント内再狭窄、POBAのみ再狭窄率(30-40%)、ステントの再狭窄率(20%)、DESの再狭窄率(数%)、アスピリン使用による出血性合併症、
• ステント留置例では、亜急性血栓閉塞を予防するため、アスピリンとチクロピジン(パナルジン)あるいは、クロピドグレル(プラビックス)が併用される。
• クロピドグレルの副作用:出血、肝障害、汎血球減少症、血栓性血小板減少性紫斑病、重い皮膚症状

■予後
⁃ 安定狭心症の場合、病歴、負荷試験の所見や心臓カテーテル検査の結果を参考に薬物治療、PCI、CABGのいずれかが選択されるが、その後の経過は比較的良好(1枝病変で心機能低下のない症例では、5年生存率は90%以上である)
⁃ 心筋梗塞の既往がないにも関わらず、多枝病変で左室壁運動の低下している虚血性心筋症の状態の症例では5年生存率が50%未満と予後が悪いので注意が必要➡PCIやCABGが必要
⁃ いずれの治療が選択されたとしても、冠危険因子のコントロールが基本
⁃ 不安定狭心症の場合は、急性心筋梗塞に移行する確率が高くなるため、すみやかにCAGを行い、適応があれば
⁃ PCIやCABGを行うことが望ましい

■患者指導、ケアのポイント

発作の予防が重要、冠危険因子の是正
⁃ 喫煙:禁煙
⁃ 高血圧:減塩食、降圧薬の内服、ストレスの解消
⁃ 糖尿病:カロリー制限食、経口抗糖尿病薬の内服やインスリン治療
⁃ 高脂血症:食事療法、HMG-CoA還元阻害薬(スタチン)などの高脂質血症治療薬の内服、肥満に対する食事療法、運動療法
⁃ 発作時の対応として、ニトログリセリンの舌下やスプレー使用方法の指導(坐位や臥位での使用をすすめる。ニトログリセリンを2錠舌下しても症状が改善しない場合は、急性心筋梗塞に移行している可能性も考え、専門病院への緊急受診を勧める)
⁃ 定期的な内服薬の服用や外来受診は必須
⁃ 長時間の入浴も控える
⁃ 過労の他、精神的なストレスや興奮はできる限り避けるのが望ましい
⁃ 入浴や排便、食事なども発作を起こす誘因となるので注意が必要
⁃ 便通に対しては緩下剤を内服させて便をゆるめにしておくことも必要である