身体診察(身体所見)

1)主に坐位で行う診察
(1)視診
a.全身
①姿勢:起座呼吸の有無

②体格:Marfan症候群では、背が高く四肢や指はクモのように長い

b.頭部
①顔色不良
•蒼白:貧血や血圧低下
•赤みがある:血圧上昇や興奮状態
•チアノーゼ:先天性心疾患や末梢循環不全

②貧血:眼瞼結膜は正常では赤いが、貧血になると白くなる

③発汗:動悸が持続して発汗が著しい→甲状腺機能亢進症、冷や汗がでていて四肢が冷たい場合→心原性ショックを疑い、直ちに救急救命措置の用意をする必要がある

④舌下静脈怒張:右心不全

⑤Musset(ミュッセ)徴候:大動脈弁閉鎖不全症の患者の症状の一つで、頭を前後に小刻みに揺らすような運動をする

c.胸部
①動き:気胸などでは左右の動きが異なる場合がある

②皮疹:帯状疱疹:神経に沿って帯状に水泡を交えた赤い湿疹を認めることがある

③静脈怒張:心不全の徴候で、頸静脈が坐位でも怒張することがある

(2)打診
a.心濁音界

b.胸水:一側の肺に胸水が貯留すると、肺の下縁で鼓音が濁音に変わる高さが左右で異なるようになる。

(3)聴診
a.心音
•第2肋間胸骨右縁:大動脈弁領域
•第2肋間胸骨左縁:肺動脈弁領域
•第3肋間胸骨左縁:エルブ領域:エルプ部位は、4つの弁の音が聴き取れるお得な部位です。
•第4肋間胸骨左縁:三尖弁領域
•心尖部:僧帽弁領域

①心周期

②I音とII音
I音:房室弁(僧帽弁、三尖弁)の閉鎖音
II音:IIa(大動脈弁の閉鎖音)、IIp(肺動脈弁の閉鎖音)
•通常はIIa→IIpの順序になる

③II音の分裂
•分裂しているのが普通
•呼吸変動がある
•吸気時には胸郭が大きくなる→胸腔内の陰圧の程度が大きくなる→右心室へ戻る血液量が増加→血液を送り出すのに時間がかかる→IIp音が遅れる
•II音の固定性分裂:心房中隔欠損症では右心室の血液量がつねに増加した状態なので、II音は呼吸で変化しない。

④III音とIV音
•III音は一般的には心不全のときにIV音と合わせて聴取することが多い。
•III音とIV音が出現すると、I音とII音と合わせて4つの音が続くので奔馬調律(ギャロップリズム)ともよばれ、馬が走るときのトットロットのように聞こえる
•III音は拡張期の中頃で左房から左心室に血液が流入するときに出現
•IV音は心不全などで左心室が膨らみすぎているときに、さらに左房の収縮で血液が送り込まれることで生じる。IV音は左房の収縮に伴うものなので、心電図のP波の直後に出現
•心房細動になるとIV音は消失

⑤I音減弱:心筋梗塞などで左心室収縮能が低くなると心尖部でI音が聴こえにくくなる。

b.心雑音
①収縮期雑音:
•大動脈弁狭窄症(駆出性収縮期雑音:第2肋間胸骨右縁)
•貧血(機能的収縮期雑音)
•肺動脈弁狭窄(第2肋間胸骨左縁)
•僧帽弁閉鎖不全症(全収縮期雑音:心尖部)
•僧帽弁逸脱症候群(クリック)
•心室中隔欠損症(全収縮期雑音:第3~4肋間胸骨左縁)

②拡張期雑音:
•大動脈弁閉鎖不全(第3肋間胸骨左縁)
•肺動脈弁閉鎖不全(第3~4肋間胸骨左縁)
•僧帽弁狭窄症(拡張期ランブル:ゴロゴロ音:心尖部)

③心膜摩擦音:心膜炎により壁側と臓側の心膜に炎症が起き、平滑でなくなった心膜が擦れて摩擦音が生じる

c.呼吸音
①断続性ラ音
•ベルクロラ音(血圧計のマンシェットのベルクロを剥がすときのようなバリバリとした音):肺線維症、肺水腫、
•捻発音(髪の毛を指でもみ合わせたときのようなパリパリとした音);間質性肺炎

②連続性ラ音:
•笛音:気管支喘息や気管支が腫瘍で圧迫された時に聴取
•いびき音;炎症や肺水腫

d.血管雑音:頸動脈、大動脈、腎動脈などに狭窄があると収縮期に一致して雑音を聴取することがある

(4)触診
a.心尖拍動:心臓が収縮したときに心尖部が胸壁に当たって生じる拍動
•通常は鎖骨中線外側1cmあたりまでの第5肋間で触れる
•左室肥大があると、鎖骨中線より前腋窩線に拍動部位は移動する
•坐位よりはやや前屈した方が、仰臥位よりは左側臥位の方が触れやすい
•肥満していたり、肺気腫や心拍出低下があると触れにくくなる

b.脈拍
①測定部位:橈骨動脈、総頸動脈、大腿動脈、膝窩動脈、足背動脈または内顆動脈

②足底方法:示指、中指、薬指を動脈にそって並べて置いて脈をはかる

③脈拍の診断:脈動が強い:大動脈弁閉鎖不全症
•脈拍数
頻脈:1分間に100回以上、徐脈:1分間に50未満
不整の有無:何回かに1回抜ける場合は、期外収縮を考える。まったく不規則な場合は絶対性不整脈として心房細動を疑う
•左右差:大動脈炎症候群や解離性大動脈瘤などがある
c.血圧測定

④血圧測定場所
上腕:肘関節の1~2cm肩関節よりにマンシェットを巻く
大腿:膝関節の後面で聴診する。マンシェットは大腿用の幅の広いものを用いる
足首:上腕用に用いるものと同じものを足首に巻き、足背動脈の血流を超音波ドプラ法で調べる

2)臥位で行う診察
(1)視診:右心不全で頸静脈怒張
(2)触診
a.肝腫大:右心不全

b.前脛骨部の浮腫:右心不全

c.足背動脈触知:下肢の動脈硬化で触れにくくなる。

d.脈拍の左右差:下肢の動脈硬化(閉塞性動脈硬化症)